西洋では“アイスクリーム頭痛”、医学書にも書かれています。かき氷を食べると頭がキーンとします。なかには2〜3分も頭痛が続く人がいて、辛い経験です。なぜ、そんなことが起こるのでしょうか?
かき氷を一気に食べると、のどの神経が刺激されます。強烈な冷たい刺激は冷たさだけでなく、痛みまで起こします。その痛みは脳幹の三叉神経核に伝達されます。この三叉神経核には、のどや歯、こめかみなど様々な神経が痛みを伝えます。
三叉神経核に到達したのどからの痛みは一気に沢山の痛み伝達物質を放出します。すると、この痛み伝達物質は頭の痛みを伝える神経までも刺激し、そのためのどの痛みを頭痛として勘違いしてしまうのです。
アイスクリーム頭痛
1.アイスクリーム頭痛についての研究は意外に多い
2.アイスクリーム頭痛とは
3.アイスクリーム頭痛でだれにでも頭痛のつらさが体験できる
4.アイスクリーム頭痛はどうして起こるのか
5.痛みは危険信号ではないのか?
6.アイスクリーム頭痛と片頭痛
1. アイスクリーム頭痛についての研究は意外に多い
医学インターネット検索でも過去5年間に20以上の論文がみつかる。アイスクリーム頭痛は多くの人が経験している。とくに小児にかなり強い頭痛を起こし、また、夏に起こりやすい。医学的にも興味ある現象で、頭痛のふしぎを研究している人達にとって、どうしてアイスクリーム頭痛が起こるのか、片頭痛と関係があるのかといった疑問が追求されている。頭痛の理解のための研究材料の一つである。
2. アイスクリーム頭痛とは
夏の暑い日に、冷たいものを急に飲み込むと数秒後に頭痛がこめかみ、側頭部に起こる。刺すような、「脳が凍るような」、ときに脈うつ頭痛で、ひどい頭痛は10〜30秒間も続く。ただ、2〜5分以内には必ずおさまる。喉(のど)の中央で飲み込むとこめかみに頭痛が、喉の片側に寄せて飲み込むとその側に頭痛がする。
日本ではかき氷を食べたときに起こりやすい。氷をひとかたまりで一気に飲み込むと喉全体への強い冷刺激となり頭痛が生ずる。3割以上の人が経験しており、とくに男の子(中学生に)多いことが報告されている。多くの人はつらい体験から、その後かき氷は注意深く食べている。
3. アイスクリーム頭痛でだれにでも頭痛のつらさが体験できる
かき氷による頭痛は、始まってしまうと止められない「脳が凍るような」つらい頭痛体験だが、普通は10〜20秒で治まる。しかし、10〜20秒でも過ぎ去るのを待つのはつらい。この痛みがもし数時間もつづくとしたら考えるだけでも耐えられないはずである。アイスクリーム頭痛は、片頭痛のつらさを瞬間的に体験することにより、片頭痛のつらさを理解する手段ともなり得る。
4. アイスクリーム頭痛はどうして起こるのか
喉の奥の冷たい刺激がこめかみに痛みを生ずるのは、「関連痛」というメカニズムにより説明さている。冷たさのレセプターと痛みのレセプターは別で、それぞれの感覚は異なったレセプターからの神経線維を経て脳に信号が伝えられる。ただ、人の痛みと冷たさ(温度)の感覚は同じ神経線維で伝わる。また喉からの感覚とこめかみからの感覚はいづれも、脳幹の三叉神経核という場所で同じように神経を乗り継いで脳に伝達される。通常は、異なった種類の感覚と異なった出現部位はそれぞれ識別されて脳に伝わっていくが、強い刺激が急に加わったときには感覚信号の伝達に混線が起こる。強い冷たさで喉の奥全体が刺激されると、冷たさを痛みとして感ずる。さらに刺激が脳に伝わる途中でこめかみや頭からきている神経や耳からくる神経と混線し、のどの冷たさがこめかみや耳からの痛みと錯覚される。このように内臓の痛みを体の他の部位の痛みとして感ずる現象は関連痛あるいは放散痛と呼ばれ、胆のうの痛みが右肩の痛みとして感じられることなどが良く知られている。頭部の血管の痛み、筋肉の痛み、皮膚の痛みはいずれをも三叉神経により脳に伝えられるため、痛みが伝わる途中の三叉神経核(中継所)で混線が起こることがある。アイスクリーム頭痛がときに脈うつ頭痛と感じられる理由と考えられている。
5. 痛みは危険信号ではないのか?
急激で強い刺激は、熱さ冷たさにかかわらず痛み刺激として伝わり、危険信号として働くことが知られている。危険からの逃避反射のためである。アイスクリーム頭痛は起こってしまうと逃避することができないが、かき氷による頭痛も一度体験するとその後は注意深く食べるようになるので、その意味では注意信号としての痛み信号かもしれない。しかし、たとえ痛み信号が危険信号であったとしても、通常はその役割が終了すると脳の痛み調節系の働きで痛みは終わる。ところがアイスクリーム頭痛は冷刺激が去ったあとも数10秒にわたり頭痛が続くため、脳の痛み調節糸が正常に作動していないのではと考えられている。かき氷による頭痛は、単なる危険信号かの疑問だけでなく人の痛みの調節系についての学問的な疑問も提供している。
6. アイスクリーム頭痛と片頭痛
アイスクリーム頭痛は片頭痛のある人に起こりやすい。片頭痛のない人は3割で起こるのに対し、片頭痛のある人では7割に起こると報告されている。片頭痛は時々くる頭痛であるが、寝込むようなつらい頭痛が1〜2日続く。頭痛の部位や起こり方には個人差があり、様々な誘因により脳が刺激され、その結果血管が痛む病気である。寝込むようなひどい頭痛が起こるのは脳の痛み調節系に障害が起こるためと考えられている。片頭痛のある人に起こるアイスクリーム頭痛は、片頭痛がいつも起こる部位に時に脈打つ頭痛が起こりやすく、アイスクリームにより片頭痛が一時誘発されたかのようにみえる。アイスクリーム頭痛と片頭痛とに共通のメカニズム、たとえば痛み調節系の障害が起こっているとすれば、片頭痛を解明するためのモデルとしてアイスクリーム頭痛の研究が重要である。
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2009.07.30.