頭痛専門外来

頭痛外来は、頭痛のないときに受診する

 A 休日の朝の頭痛 (H23.3.15.)
(1)「もう、これ以上我慢できない。この頭痛、なんとかならないのか」
(2) 救急車で病院に運ばれた
(3)「こんなことなら、病院に来るんじゃなかった」
(4) MRI検査は最悪の体験だった。
(5) 気が抜けると言うより、怒りを感じた。
(6) 解説: 頭痛持ちの頭痛
(7) 解説:「脳の嵐」がおこる片頭痛


Bさん、38歳男性

(1) 「もう、これ以上我慢できない。この頭痛、なんとかならないのか」


Bさんは朝から始まった頭痛が段々ひどくなり、これが限界だと思い始めた。意識ももうろうとしてきた。頭痛も辛いが、それより、家族にすまないと思う。今日は、妻と小学生の子供二人と、家族で昼食の予定だった。いつだったか家族で一緒に食事して、皆の評判がよかった焼き肉やで昼食をする事になっている。本当に久しぶりだ。
38歳で課長となり、初めて任された新しいプロジェクトが、昨日やっとめどがつき、ほっとしたところだ。昨日の夕食の時、「明日は、家族で食事に行こう」と言い出したのもBさんで、家族団らんの機会を楽しみにしていた。いつも飲む缶ビールの小瓶に加え、妻とワインも飲んだ。Bさんは大きな仕事が一区切りついたこともあり、上機嫌。快い開放感にひたりながらの夕食だった。

「そういえば、俺の頭痛はいつも休みの日に限って起こる」Bさんは思った。
今日は、朝目が覚めた時から頭の後ろの方が重く、またいつものひどい頭痛にならないか心配だった。心配が的中し、頭痛は徐々にひどくなる。二日酔いとは違って、静かに寝ていても痛みはどんどんひどくなる。
「早く治ってほしい。家族をまたがっかりさせてしまう。休みの日に家族と計画をたてるたびに、頭痛でドタキャンはたまらない」
「お父さんは、私たちのことが嫌いなんだ」と次女に言われたこともある。
 Bさんは市販の頭痛薬を一気に4錠飲んだ。注意書きには「2錠ずつ飲む」ように書いてあるが、今日の痛みは普通ではない。
お父さん、また頭痛なの?」妻が心配して、Bさんに優しく手を触れた。
「うん、今日のやつはちょっとひどいな。でも薬を飲んだから、もう少し寝かしてくれ」
頭の後ろを鉄板で押さえつけられるような強い頭痛だったが、30分ほどで少し痛みが和らいだ気がした。トイレに行こうと起き上がると、頭全体のがんがとする痛みを感じた。トイレでいきむと、さらに頭痛がひどくなり、吐き気も感じた。
「いつもの、最悪のパターンだ」Bさんは、自分をののしりたい気がした。

Bさんの頭痛は、いつも頭の後ろの強い圧迫感から始まり、そのうちに頭全体がひどく痛むようになる。時々、頭の片側に痛みの強いことがあるが、右のことも左のこともある。1時間もたたないうちに、頭の中に心臓があるように、脈打つような痛みにかわる。動くと頭痛がひどくなって辛いので、半日は寝込むことが多い。吐き気があり、吐いてしまうことも少なくない。明るい光や、音がとても気になる。普段は気にならない料理のにおいも、頭痛の最中にはやめてほしいと思う。
Bさんは10歳ころから、時々軽い頭痛はあったが、その頃は2〜3時間くらいで治まっていた。でも、頭痛の最中は「暗い、静かな部屋で、じっと動かず静かにしていたい」のが本音である。頭痛のない時は、ケロッとしており、普段は全く支障がないので病気とは思わなかったし、元気なときに病院を受診する気はなかった。

 「おい、今日の頭痛はずいぶんひどい。死にそうに痛いよ」
さっきから夫の様子を見ていたBさんの妻も、そういわれて心配になってきた。何回も吐いたし、顔色も蒼白になってきた気がする。
「いつもよりひどいんじゃない?病院にいってみようよ」
「いや、もうちょっと様子を見てみる、前にもひどいことがあったけど、不思議と良くなるんだ。それより、お昼の焼き肉、この調子ではむりかな?」
「なに、言ってるの。いつものことじゃない。子供たちも分かっているから、大丈夫。それより、昨日の夜のあなた、激しすぎたわ。私、嬉しかったけど、いくらほっとしたからって疲れてるあなたの体が心配だった」
妻の優しさは痛みを少しいやしてくれる。しかし、痛みは頭全体にどんどんひどくなり、限界のような気がした。
だめかもしれない。いつもと似た頭痛だけど、脳に何か起こった気がする。このまま死ぬわけにはいかない」
それを聞いて、妻はすぐ119番に電話した。


(2) 救急車で病院に運ばれた


 
 妻が電話して10分もたたないうちに、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえた。サイレンの音が聞こえなくなって数分後には、赤いランプを点滅させた救急車が窓の外に見えた。
Bさんはパジャマのままで救急隊員に支えられながら救急車に乗り込み、ベットに横たわった。妻も同乗することになった。
保険証持った?」Bさんは自分がしっかりすることを知らせるように妻に聞いた。
「大丈夫よ、心配しないで」妻にとっても救急車に乗るのは初めての経験で、自然に膝が震えている。
「もう、任せるしかない」Bさんは、病院での治療に期待することにした。
 救急車の中では救急隊員が症状を聞き、血圧を測ったりしながら、病院搬送の手はずを無線連絡していた」



(3) 「こんなことなら、病院に来るんじゃなかった」


病院での診療が終わった後、Bさんの辛さには失望が加わっていた。頭痛もまだひどい。病院では問診、診察、MRI検査、痛み止めの点滴など、合計約4時間かかり、「気をつけてお帰り下さい」といわれて、会計の窓口では2万4000円を請求された。
まだ頭全体が脈打つように痛んでいる。点滴にかなり強い鎮痛剤と鎮静剤が入っていたせいか、体中がマヒしたようにけだるく、頭痛も少しはマヒしたような感じだった。

病院に着いたときも頭痛は続いていた。
「これまでにも似たような頭痛はありましたが、今日の頭痛はとてもひどくて、こんなに吐いたのも初めてです。」Bさんは医師の質問に的確に答えたつもりだった。
「それで、救急車まで呼んだんですか?」
「先生、死ぬかと思ったぐらいです」
頭痛ごときで救急車を呼んだことに、医師から皮肉を言われているような気がした。
「今までもあった頭痛ですよね。頭痛で死ぬことはありませんけど」
医師は小声で短くつぶやいて、問診を続けた。
「いつ頃から頭痛があるんですか?」
「拍動性の頭痛ですか?」
「拍動性って?」Bさんには、質問の意味がぴんとこなかった。
「ガンガンとか、脈打つ頭痛かと言うことです。片頭痛だと、拍動性の頭痛です。そのことがはっきりしないと診断が難しいんです」
はい、ガンガンはします」今のBさんには、それ以上の答えは出てこない。
医師は質問を切り上げた。
「脳のMRIとMRAを撮ります。脳出血とか脳動脈瘤がないかを調べる検査です」



(4) MRI検査は最悪の体験だった。


狭い検査台に乗せられ、「動かないでくださいね」と技師に言われた。
頭をベルトで強く固定されたときは、頭の芯まで押しつぶされたような強い痛みが走った。
動きようもない。
「うー、」とうめくことしかできなかった。いつも頭痛のときは、頭や顔に触られるだけでも敏感に痛みが走る。ましてや、強くベルトで圧迫されるのは、拷問に近かった。
横に寝かされた狭い検査台が、自動的にすべるように頭の方向に動き、巨大なドーナツのような機会の中に吸い込まれていった。
「これから、火葬場で焼かれるようだな」
Bさんの苦痛は続いた。
突然、どこからともなく、大きく響く音が聞こえてくる。
「まるで、お寺の木ぎょうの音のようだ」
音が段々と大きくなり、容赦なくBさんの耳にひびき始める。頭痛の最中は音に敏感になっていて、音がするたびに脳がたたかれるようだ。
「だれか、この頭を切り取ってくれ」薄れる意識の中で叫ぼうとしたとき、音が消えMRIの狭い台が動き始め、巨大なドーナツの機会の外に出た。
「Bさん、終わりましたよ」
Bさんは我慢の限界まで頑張った気がした。

MRI、脳に異常なしです。MRAでも脳動脈瘤は見つかりませんでした。脳の病気なしです。ご安心下さい」
医師は口早に説明した。
「安心?」



(5) 気が抜けると言うより、怒りを感じた。


「先生、でも、このひどい頭痛はなんとかならないんですか?」
「大丈夫、死ぬことはありませんよ。MRIで脳に病気はないですから」医師は早くその場を離れたい口ぶりだった。命に別状のある別の患者さんが待っているといわんばかりであった。
「この頭痛はどうしたらよいんでしょうか?」吐き気をこらえながら、Bさんは必死に医師に聞いてみた。
「痛み止めと鎮静剤を注射しておきます。落ち着いたら、気をつけてお帰り下さい。MRIに異常のない頭痛は心配ありません。頭痛のことがまだ心配だったら、今度は、頭痛のないときに病院に来て専門の先生と相談して下さい」
「頭痛のないときに病院にくるって?こんなに辛い頭痛の時に来たのに」
Bさんはがく然として、うなった。
「俺の頭痛はいったい、いなんだ。今日は脳に嵐が起こったみたいだ」
Bさんは、自分はただの頭痛持ちの頭痛だと思っていたが、今日のような頭痛がまた来ては大変だ。いつ頭痛が来るかわからないのでは、仕事も遊びも予定がたたない。
「専門の先生と相談か?探してみよう」
その後、Bさんは頭痛の専門医を受診することになる。



(6) 解説: 頭痛持ちの頭痛


 いわゆる「頭痛もちの頭痛」は慢性頭痛ともよばれ、頭痛が長年にわたり繰り返すのが特徴である。代表的な頭痛が片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛の三大頭痛である。これらの頭痛は、脳そのものや脳の血管が過敏状態におちいり、強い頭痛を生ずる。頭痛そのものが「ひとつの病気」であり、この場合、「頭痛」は病名である。」国際頭痛分類では一次性頭痛と分類される。
 これに対し、クモ膜下出血、髄膜炎、脳腫瘍など、脳の病気の結果生ずる「頭痛」は症状である。国際頭痛分類で二次性頭痛と分類される。

 脳の病気が原因で起こる頭痛は、頭痛が起こったら、すぐ病院を受診する。MRIや髄液検査で診断がつき、脳外科や神経内科で専門的な治療が行われる。
片頭痛などの一次性頭痛は、ひどい頭痛の最中でもMRIは正常なので、必死の思いで病院に行っても検査で何も異常は見つからない。それでも、救急車で運ばれるほどの頭痛の場合は、脳の病気を見逃さないように、医師はMRIなど多くの検査を行なう。
頭痛が「片頭痛」と診断されていれば、無駄な検査は必要ない。それどころか、片頭痛には、「スマトリプタン注射薬」という特効薬があり、皮下注射をすると通常5分で頭痛が良くなり始め、30分後には魔法のように頭痛が消失する。片頭痛の7割以上に有効であり、群発頭痛の特効薬でもある。


(7) 解説: 「脳の嵐」がおこる片頭痛


 片頭痛の頭痛は、発作的に時々起こるのが特徴である。頭痛のないときはケロッとしており、かえって他の人より仕事の出来る人が多いくらいである。ただ、片頭痛の発作中には、半日〜3日間、「脳の嵐」がおこる。常に激しい頭痛とは限らず軽い頭痛ですむこともあるが、ひどい頭痛が起こったときは悲惨である。
「頭痛がひどくなったら、頭を首から外して、頭痛が治まるまで冷蔵庫の中に入れておきたい」
Bさんも同じように思ったことがある。「脳の嵐」は頭痛のみでなく、吐き気、嘔吐をもおこす。動くと頭痛がひどくなるので寝込んでしまう。脳が異常に過敏となり、光、音、においなどが、脳にとって耐え難い刺激となる。


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