頭痛専門外来
頭痛外来は、頭痛のないときに受診する

 B 頭痛専門外来の受診 (H23.04.12.)
(1) 思い切って、『頭痛専門外来』を受診
(2) 早速インターネットで検索
(3) 解説:慢性痛診断の難しさ
(4) 頭痛専門外来受診の当日
(5) 正直いって、不安なんです
(6) 片頭痛?治りますか?
(7) 頭痛のとき、前触れがありますか?
(8) 前兆って、原因は何ですか?
(9) 前兆の後にくる頭痛は、どうしておこるのですか?
(10) もう一つ大切なことがあります

(1)思い切って、『頭痛専門外来』を受診


 先週、救急車で病院に運ばれ、ひどい目にはあったが、Bさんはこの際、20年も続いている頭痛をなんとかしたいと真剣に考えた。頭痛専門外来にいけば、自分の頭痛について分かってもらえるのではないか?そんな、期待感があった。もちろん、「頭痛外来」なんて今まで聞いたこともないので不安も大きい。

「頭痛のないときに、頭痛専門外来を受診して下さい」、救急外来を受診したときに、Bさんは医師にそういわれた。Bさんは、その言葉はとても納得できなかった
「頭痛のあるときにこそ、病院にいく意味があるんじゃないのか?」
「でも、救急の先生は頭痛の専門ではないみたいだったわ」病院に同行した妻は、より冷静に判断が出来たようだ。
「あなたの頭痛は、長年にわたって、時々だけど繰り返しひどくなる。そういった頭痛の原因は専門家に調べてもらっておいた方が良いのかもね」
妻の言うことはBさんにも分かっていた。
「片頭痛らしいけど、片頭痛っていったい何だろう。命に別状はなさそうだけど、治る病気なのかな?とにかく、頭痛で俺の人生はとてつもなく大きな被害を受けてきた」
妻も、Bさんの頭痛を正しく治療する方法あるのか、専門の医者に是非みてもらうべきだと思っている。
「頭痛って、誰でもあることだし、病気じゃないと思っていたけど、あなたのあのひどい頭痛は病気ね。でも、あれほどひどいときにMRIの検査でも異常がなかったのが不思議」妻の疑問は当然だった。
「クモ膜下出血とかいうのは脳の動脈瘤が切れるわけだから、病気だろうけど」妻も自信がない、「そうすると、俺の頭痛は精神的な病気なのかな?」Bさんは時々不安に感じていた。
実際、Bさんは頭痛の時に、自分自身がおかしくなることに気づいていた。既視体験のようなこともある。疲れのせいかとも思ってみたが、「自分は、精神的に異常があるのかもしれない」という不安を妻に話したこともある。
「精神科にいってみようか?」
「でも、いつだったかテレビで頭痛の番組があって、専門の先生が話しをしていたみたい」妻には、夫が精神科の病気だとは思えない。


(2)早速インターネットで検索


「あなた、『頭痛』で検索したら、たくさん出てきたわ」
「俺も検索してみたことあるけど、頭痛に専門の医者っているのかな?」
「あなた、これどう?日本頭痛学会だって。頭痛に学会があるみたいよ」
「ほんとだ。社団法人だって」
最初のページで『市民・患者の皆様』の欄をクリックするようになっている。クリックすると医療機関・医師をさがす項目があり、そこをクリックすると日本地図が県別に色分けされて出てきた。
「ほら、県ごとに頭痛専門医のリストが出てくる」

「頭痛外来もたくさんあるし、頭痛センターもあるわ」意外な発見である。頭痛センターというくらいだから、頭痛を専門的にみてくれそうだし、頭痛をまともに扱ってくれるに違いない。
 『学会認定専門医』がいるのは驚きだった。頭痛にも専門医の集団がいて、市民に門戸を開いている。嬉しい発見だった。
「俺と同じように、頭痛で悩んでいる人が多いのかもしれない。頭痛専門医がいると言うことは、頭痛で病院を受診してもいいんだ」
長年、頭痛に悩んできたBさんだったが、「精神的なものだよ」といわれることが多く、とても他人に自分の頭痛を理解してもらえるとは思っていなかった。
 「頭痛ごときで病院に行っても相手にされないよ」、「痛みを感ずるのは生きている証拠」Bさんは父にそういわれていたから、『頭痛専門医』に一筋の光明をみた気がした。早速受診する事にした。


(3) 解説:慢性痛診断の難しさ

 
慢性頭痛のチャンピオン「片頭痛」の診断には、医師も手こずることが多い。様々な起こり方があるし、頭痛が自覚症状であるため、頭痛情報が医師に伝わりにくい。ある大学の調査によると、片頭痛が始まってから「片頭痛」の診断がつくまでに、平均10年間かかっている。片頭痛の診断には、頭痛情報を出来るだけ詳しく分析する必要がある。その点、高血圧が血圧測定で簡単にわかるのとくらべ、大きな違いである。
頭痛のタイプを診断するには十分な問診が重要である。患者の頭痛情報がいかに正確に医師に伝わるかが、正確な診断のかぎとなる。頭痛の感じ方、表現の仕方は人により様々である。片頭痛は病気であるが、痛みは自覚症状のため、訴え方も様々となる。とくに、辛い頭痛の最中には本人も混乱しており、頭痛の正確な診断をするのは困難なことが多い。


(4) 頭痛専門外来受診の当日


頭痛専門外来は予約制だったので、仕事の調整はなんとか出来た。
病院の広い待合室のホールには吹き抜けがあり、ガラス張りのホールには柔らかい光が差し込んでいた。ホールには多くの椅子があり、5〜6個づつテーブルを囲むように配置されていた。ソファーもいくつかある。
「病院の待合室というより、大学の図書館のラウンジのようね」
Bさんが明るい照明が苦手なことを知っている妻は声をかけた。
明るいのは苦手なんだ」Bさんは苦い体験を思い出していた。「ドライブの最中、急に海面からの逆行がまぶしくて、頭痛が始まったことがあった」

「Bさん、診察室2番にどうぞ」スピーカーから声が聞こえた。
そういえば、こうして診察室に入るのは、久しぶりだった。医師と向き合うのは、会社の定期健診の時くらいの気がする。Bさんは緊張した。
「Bさんですね、どうぞ荷物はそのかごに入れて、お座り下さい。」50代後半だろうか、ソフトな感じの男性医師だった。「奥様ですか?そちらの丸椅子で良いですか?」ごく普通に話しが進むようでBさんも妻も、ほっとした感じだった。
「今日いらしたのは、頭痛ですね?」問診票を見ながら医師がたずねる。「どんな頭痛ですか?」
「はい、先週あまり頭痛がひどいので、救急車で近くの病院にいきました。検査ではなにも異常がないと言われました。でも、その時はとにかくひどい頭痛でしたので、異常がないといわれたのですが、かえって心配になっています」

「どんな検査でした?CTとかMRIですか?」
「MRIとMRAだと思います」妻も相づちを打ってくれた。「MRIで異常がないと、脳の病気ではないのですか?」
「MRIは脳の内部を詳しく調べる画像検査で、なにか脳に『異常なもの』があればミリ単位の大きさでも確認出来ます」医師は続ける。「MRAは脳の血管を立体的に映し出す検査で、例えば動脈瘤などは小さなものでもわかります」
「その、MRAも異常ないと言われました」
「動脈瘤がなかったということですね。今後、動脈瘤が破裂して、クモ膜下出血にはならないと言うことで、安心という分けです」

 「先生、逆に不安なんです。あんなにひどい頭痛の最中に、検査でなにもないって、信じられないんです。あのひどい頭痛の原因は何でしょうか?」
「そのことをはっきりさせるために、今日いらしたんですね」医師は質問を続けた。「先週のようなひどい頭痛は、今までにも何回かありました?あるいは、それほどひどくなくても、似たような頭痛、、」
「はい、何回もあります。先週のもひどかったですが、もっと辛い頭痛のこともありました」


「頭痛がくるのは時々で、頭痛の最中はひどいけれど、ないときはケロッとした感じですか?」
Bさんは、そのとうりだと思った。確かに、ひどい頭痛がきて寝込むこともあるが、それも時々で、辛いのは2日間で終わる。3日目には津波が引くように消え、なにか爽快な気分すらする。頭痛の去った後の爽快感が不思議だった。脳の中で病気との闘いが終わり、勝者から慶びの信号が送られてくる。ランナーズハイの気分かとも思った。でも、何かがおかしい、精神的な異常があるかとも思い、これまで病院を受診をためらっていた。
痛み止めを思い切って飲んでみたこともある。頭がぼんやりして、少し痛みが和らいだ気もしたが、ほとんど効果はなかった。それに、頭痛が終わる頃になっても、頭のぼんやりした感じが半日ほど続き、頭痛が終わった感じがしない。それ以来、鎮痛剤は飲んでいない。頭痛の時は、ひたすら我慢であった。


(5) 正直いって、不安なんです


Bさんにとって『不安』が最も辛かった。今日は、思い切って自分の気持ちを医師に伝えようと思った。
「10歳頃から頭痛が始まりましたが、時々だったし、半日か1日で治って、また元気になるので、親もあまり心配しませんでした」
「その頭痛が、最近は、ひどくなったのですか?」
「はい、大学時代には辛い頭痛が時々起こっていました。頭痛でドタキャンはざらでした」
「最近のひどい頭痛についておしえてくれますか?」医師は頭痛の現状について質問をはじめた。「ひどい頭痛はどれくらいの頻度ですか?週1回とか、月に1回とか」
「月に1回か2回です。寝込むような頭痛は2ヶ月か3ヶ月に1度くらいで、どうしても会社は休みます」
「どんな頭痛ですか?」
「はじめ、首から後頭部の方が凝ってきて、強く絞られるような感じが起こります。そのうちに頭全体に痛みが拡がり、目の奥もひどく痛くなります」
「痛みがひどくなると、脈打つような感じになりますか?」
「ほとんどは頭の全部が鉄の塊でグーっと押しつけられる感じですが、ひどくなると心臓が頭の中にあるような感じもします。はい、脈打つ感じです」
「頭痛は、頭の片側に起こりやすいですか?」
「頭全体に痛むことが多いですが、片側だけがひどく痛むこともあります。それも、右だったり、左だったり、その時によって違います」

「頭痛の最中は動くと辛いですか?紛れることもあります?」
「いえ、とても紛れることはありません。動くと、頭全体が割れそうになります。静かにしていてもはき気がしますが、動くと吐くのでじっとしています。いつだったか、何回も吐くので、半日くらいトイレの便器から離れられないこともありました」



 医師はここまでのBさんの話しをまとめて、Bさんに診断名を伝えた
「頭痛の最中は、静かな暗い部屋で、じっと動かずに寝ていたい。そういった頭痛が時々、軽いのも含めると月に1回か2回起こる。Bさんの頭痛は『片頭痛』に特徴的です」医師の診断だった。


(6) 片頭痛?治りますか?


Bさんは、改めて自分の頭痛が片頭痛と聞いて、納得したというより半信半疑だった。『片頭痛』って、軽い頭痛のことじゃないか。俺の頭痛はそんなんじゃない。
「片頭痛は脳の血管の痛む『病気』で、相当に辛い頭痛です」
『病気』という言葉に、Bさんは何故か安心した。そうか、やっぱり病気でいいんだ。
でも、不安にもなる。
「治りますか?」
「片頭痛はもともとある遺伝的な体質が原因なので、完全に治すわけにはいかないのですが、片頭痛を軽くする薬や、予防する薬は新しく開発されていますので、片頭痛は上手にコントロールできます」
医師は、高血圧や糖尿病も遺伝的な要素が多く、治すというよりも薬や生活習慣でコントロールする。脳卒中や心筋梗塞にならないように予防するといった例を挙げて解説してくれた。
「脳卒中や心筋梗塞は、将来病気が起って、寝たきりになる可能性があるわけですが、片頭痛は働き盛りの若いときに頭痛で寝込んで会社を休んだり、頑張って会社に行っても仕事の能率は最悪、いつもの半分以下じゃないですか?」
「そのとおりです。おっしゃるように、これまで随分、損してきたような気がします。人生が大損した気がします」

「先生すいません。片頭痛のひとは脳卒中になりやすいって、テレビで聞いたことがありますが」妻が心配そうに聞いてくれた。
「片頭痛だから脳梗塞になりやすい、ということはありません。そういった統計結果がセンセーショナルに報道されたこともあります。おかげで片頭痛が、特に米国のマスコミで脚光を浴びたことがありました。ですが、その後の研究では否定されています」
医師ははっきり伝えたいと感じた。
「注意が必要なこともあります。女性が女性ホルモン、例えば経口避妊薬を安易に服用する、さらに喫煙をする人は、脳梗塞のリスクは確実に増えます」医師は続けた。「また、片頭痛の人には心房中隔欠損症を合併していることがあり、その場合も脳梗塞が起こりやすいですが、心臓の検査でわかります」
「私は大丈夫ですか?」
「身体検査で心臓に雑音あるといわれたことがなければ、先ず問題ありません。心配だったら、心臓の超音波の検査で確実な診断が簡単に出来ます」医師は続けた。「片頭痛は立派な病気ですが、どんどん悪くなる病気ではなく、時々、期日限定でくる辛い発作で悩まされる病気です」
「遺伝的な体質は治らないけど、病気はコントロール出来るということですか?」
「そのとうりです」そう、はっきり言われて、Bさんはこの医師には自分の頭痛のことをもっとく知ってもらいたいと感じていた。


(7) 頭痛のとき、前触れがありますか?


「Bさん、頭痛のとき、前触れがありますか?例えば、目の前にチカチカしたギザギザ模様がみえることがありますか?」
「それ、時々あります。片頭痛に関係あるんですか?」驚きだった。
「片頭痛の始まる前に、前兆の起こることは良くあります。Bさんはどんな感じですか?」
「いつもではないですが、時々、頭痛が始まる前に、キラキラしたものが見えることがあります。はじめ、目の前の一部が見えにくいことに気付くんです。おかしいな、ゴミかと思って手で振り払おうとしても、なくなりません」
Bさんは、当初は目が悪いかのかと思って眼科を受診したことがあった。異常なしだった。
「逆に、その部分が段々大きくなって、そのうち水車の右半分だけの絵のように見えてきます。水車のまわりがジグザグに色がついて輝くように見えます。目の前の水車がだんだん大きくなり、右の視野全体に拡がったと思うと、そのモザイクがかかった絵が自然に視野の右側に消えていくんです」
一気に話してBさんはほっとした。万華鏡をみるような不思議な体験だ。いつも同じような映像が現れる。
この幻視体験は脳の異常に違いないと思っていたので、Bさんはこのことを妻にも話していない。精神科を受診してみようと思った理由でもあった。
「それが片頭痛の前兆で、閃W暗点と呼ばれます。Bさんの場合、何分くらい続きますか?5分とか、1時間とか」
「20分くらいです。でも、5分くらいで終わることもあります。そうなんです。そのあとで、ひどい頭痛が始まります。目の前のギザギザが右の方に拡がっていったあとは、たいてい反対側の左の頭にひどい頭痛が始まります」
「前兆で始まって、その後ひどい頭痛が起こるのが、最も典型的な片頭痛です」
「前兆がないのに頭痛の起こることの方が多いです。それも片頭痛ですか?」
「いつも前兆のある人は、かえって少なくて、頭痛だけの片頭痛は良くあります」


(8) 前兆って、原因は何ですか?


「前兆が起こるのは脳細胞全体が過敏になり、あるとき突然その脳の一部が興奮状態になるからです。色々なことが前兆のきっかけになりますが、ほんの少しの誘因でも起こります」医師は、前兆の起こるメカニズムの説明をはじめた。
「例えば、ストレスから解放されたという変化が、脳の興奮のきっかけにもなります。『ホッとした』という気持ちが、脳では様々な変化を起こしています。脳内物質のセロトニンはとたんに減少します」
「脳にある後頭葉の小さな部分に興奮が起こり、その小さな興奮が波紋のように周辺に拡がります。静かだった池に小石が投げ込まれると、小石が落ちたところから輪を描くように水面をさざ波が拡がるのに似ています。さざ波は頂きと底とが交互の波となって拡がっていくように、脳細胞の興奮と抑制とが交互に起りながらに脳の表面を波紋のように拡がります。後頭葉は視覚の中枢なので、脳の興奮は視覚の異常と感じられるのです」
「それで、水車のまわりのギザギザした光が拡がっていくように見えたり、すりガラスのモザイクが後を追うように見えるのか」Bさんは自分にはこれまで全く不思議だった体験の真実が解き明かされるような気がした。
「後頭葉だけでなく、前頭葉に前兆の起こることもあります」
「前頭葉って?」
「話しをしたり、手足を動かしたりする脳の中枢です。その場合には、話しが出来なくなったり、手足の動きが鈍くなったりします」
「目の前にキラキラしたものが見えた後、言葉が思い浮んでこないこともあります」実際にBさんは損な経験もあった。

「そんなことが起こっても、脳は大丈夫なのですか?
「片頭痛の脳の前兆は『皮質拡延性抑制』とよばれています。人の脳でおこる、片頭痛に特徴的な現象です。その結果、脳に障害が残ることはありません。脳自体は、遺伝的に活発とされていますので、脳の活動はほかの人より活発に働くと考えられています。脳に障害が残ることはありません」


(9) 前兆の後にくる頭痛は、どうしておこるのですか?


「それは良い質問です」
「分かってないんですか?」
「脳に起こった興奮は、そのあと脳の血管の周りにある三叉神経に伝わり、三叉神経から強烈な刺激を血管に送ります。CGRPという脳内物質が脳の血管を刺激します。脳の血管にはあたかもインフルエンザに直撃されたような強烈な炎症が起こり、血管は拡張し、痛みます」
「片頭痛はインフルエンザとおなしですか?」
「インフルエンザはウィルスが炎症を起こすのですが、片頭痛は三叉神経からの物質が炎症を起こすので、神経原性炎症と呼ばれます。炎症が強いところが似ています」
「インフルエンザはタミフルという薬が良く効きました。熱が39度もあったんですが、翌日には解熱したんです」Bさんはインフルエンザにかかったことがある。その時は5日間の出勤停止で、手持ち無沙汰だった。
「片頭痛の発作にはトリプタンという薬が良く効きます。ちょうどタミフルと同じ頃に開発されたメカニズムに効く薬です。今日は、トリプタン系の薬のひとつを処方しておきます。片頭痛が始まったら、出来るだけ早めに飲んで下さい。痛み止めではありません。片頭痛の火元を消す薬です
「トリプタンですか?飲んでみます」
長い診察だった。医師は丁寧に説明をしてくれ、Bさんはありがたいと思った。


(10) もう一つ大切なことがあります


医師は郵便封筒くらいの大きさの冊子をわしてくれた。「頭痛ダイアリーですが、カレンダー方式ですので頭痛のあったときに印をつけておいて下さい」
「はい、この空欄には何でも書いて良いんですか?」
「そうです。頭痛は自覚症状で、誰にも分かってもらえないですよね。まっ、自分でもなんだかわからないので、ダイアリーを書いてみると頭痛のことが良くわかって、今度私と二人でダイアリーを見ながら次のステップに進めます。片頭痛は観察してみると、奥の深いところがあります」
医師は、笑顔でBさんに穏やかな視線を向けた。
「有り難うございました」
「それではお大事に、1ヶ月後に予約入れておきます」

Bさんは嬉しかった。『頭痛専門外来』にきて良かった。頭痛は我慢するための試練としか思っていなかったが、治療が出来る病気だということが分かった。Bさんにとっては、カルチャーショックのようだった。良くなるかわからないけど、頭痛が来たらトリプタンを早速飲んでみよう。それに、『片頭痛には奥の深いところがあります』という医師の言葉が安心を大きくさせた。今日の話しで分かったことも多かったが、片頭痛の体験にはまだ不思議なことが多い気がする。
頭痛ダイアリーをつけてみよう。片頭痛は克服できる病気なのかもしれない。寄り添った妻と笑顔で、病院をでた。

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