頭痛専門外来

(12) 気配がしたら、ドンペリドン(ナウゼリン)


 「それは心強い」医師は、Aさんはうまくやってくれると思った。
「ドンペリドン(ナウゼリン)は胃腸の動きを良くする薬です。片頭痛は発作がくると胃腸の動きが止まって、下手をすると吐き気がしたり、実際に吐いたりします。それでは、トリプタンは効率よく体に吸収されません」
「わかります。片頭痛の時に痛み止めを飲んで、すぐに吐いてしまったことがよくありました」
「片頭痛発作の2〜3日間は、胃腸の動きを良くすることが治療のコツです。ですから、気配がしたらドンペリドン(ナウゼリン)を先ず飲んで下さい。そして、その後の片頭痛の2〜3日間は予防的に1日3回飲み続ける。
 医師は、このドンペリドン作戦をほとんどの患者さんに勧めている。『吐き気止め』と薬の説明書には書いてあるが、吐き気が始まってからではドンペリドン自体も胃腸から吸収されなくなる。

 「今日はトリプタン6回分と、ドンペリドンを少し多めに処方します。今度は1ヶ月後にこれますか?」
「はい、予約をお願いします」
「Aさん、寝る前のアミトリプチリン(トリプタノール)半錠はしばらく続けて下さい。体操もね。これ、新しいダイアリーです、続けて下さい」
「はい、わかりました」Aさんと夫が、声をそろえて答えた。医師は、良いご主人だと、すがすがしい気分がした。
「お大事に、また拝見します」

 病院を出るAさん夫妻は、2人の人生が変わるような気がして嬉しかった。夫は妻の手を強く握った。
「痛い」とAさん。
「痛いのは夫婦の絆」と夫。
2人は、笑いながら病院を後にした。

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