頭痛専門外来での診察風景

(8)頭痛の診察(触診)


「Aさんの片頭痛と緊張型頭痛を診察してみましょう」 医師は自信ありげだった。
「Aさん、ちょっと失礼します。首の後ろと肩の触診をさせて下さい。首の横から後ろ、さらに肩にかけて多くの筋肉があり、頭の位置をバランス良く保ち、また頭をスムースに動かすのが役目です」 医師はAさんの首と肩の筋肉の触診を始めた。

1)緊張型頭痛の筋肉のしこり
「ここに、しこりがある。ここにも、ここにもあります。押すと痛みますね。みな、頭を支えている筋肉が疲労して、しこりを作り、血行が悪くなり疲労物質や痛み物質をためています。しこりを圧迫すると痛いのはそのためです」
Aさんは痛みをこらえながらも、いつかマッサージにいったとき、筋肉のこりがひどいといわれたことを思い出した。
「緊張型頭痛では頭痛に関係する筋肉だけでなく、目の動きや、体のバランスを保つ筋肉にも疲労現象が出るので、目の疲れ、ふわふわめまいもよく起きます」
「はい、私もよく目が疲れます」

2)片頭痛の圧痛点
「Aさん、次は片頭痛の圧痛点です。また、痛かったら遠慮なくいって下さい」
 医師は、Aさんの首の後ろ(うなじ)の中央のくぼんだところ(盆の窪)の約1センチメートル上で、中央から約1センチメートル両側を指で圧迫した。
「痛いっ」 Aさんは飛び上がらんばかりの痛みを感じた。
「ここの痛みはさっきの筋肉のしこりの痛みより強いですね」
「すごく痛みます。こんな痛みが起こるなんて」 Aさんは医師に抗議するように答えた。何が起こったのかわからない。
「この痛みは筋肉のしこりの痛みではありません。片頭痛が慢性的になると、脳内に片頭痛の回路が出来てしまいます。ちょっとした刺激で、回路が活性化して片頭痛が起こります。その回路の一部が首の後ろまで伝わって来ていて、押すと強い痛みを感じます。頭まで痛みが伝わることもあります。こんな痛みを背負ってるとは思わなかったでしょう」
「はい、びっくりしました」 Aさんはあまりに痛みが強いのが、とても不思議だった。

3)脳の痛みの番人
 片頭痛は三叉神経の興奮により脳の血管を拡張させ痛みを起こすが、三叉神経は生じた痛みを脳に伝達する働きもある。脳幹の三叉神経核は片頭痛の痛みの発生と調節に重要な役割を果たしている。痛みを抑制する神経も中脳から脳幹の三叉神経核に線維を送り、痛みを調節している。痛み調節系が上手く働かないと片頭痛は慢性化してしまう。本来、時々起こるのが片頭痛の特徴であったのに、痛み調節系が働かないと、毎日でも片頭痛や関連した頭痛が起こる。痛み調節系は脳の痛みの番人ともいわれる。

4)片頭痛の慢性化
 片頭痛が時々(通常は毎月2回か3回で、1回の頭痛は1日か2日)でなく頻度が増えることを、片頭痛が慢性化したという。慢性化する原因としてはストレス、うつ状態などとともに、鎮痛薬の乱用が最近増加している。痛み止めを多く飲み過ぎると、脳の痛みの調節系は働く必要がなくなり、脳の痛みの番人がさぼってしまう。ちょっとした痛みにも、さらに痛み止めを飲むことになり、悪循環になる。Aさんも鎮痛薬をかなり飲んでおり、痛み調節系の機能低下により頭痛が毎日くるようになったと思われる。片頭痛の慢性化は、最近増加しており、頭痛診療に於いて重要な課題である。
「まず、脳の痛み調節系を活性化することが治療の第一歩です。痛み調節系が働き出すと、さっきとても痛かった片頭痛の圧痛点がなくなります。そのために、頭痛体操が効果的です」 医師はAさんとともに自分も立ち上がり、頭痛体操の指導を始めた。

(7)片頭痛と緊張型頭痛
(9)頭痛体操
診察風景

H23.03.03.
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