頭痛専門外来
B 頭痛専門外来の受診

(4) 頭痛専門外来受診の当日


頭痛専門外来は予約制だったので、仕事の調整はなんとか出来た。
病院の広い待合室のホールには吹き抜けがあり、ガラス張りのホールには柔らかい光が差し込んでいた。ホールには多くの椅子があり、5〜6個づつテーブルを囲むように配置されていた。ソファーもいくつかある。
「病院の待合室というより、大学の図書館のラウンジのようね」
Bさんが明るい照明が苦手なことを知っている妻は声をかけた。
明るいのは苦手なんだ」Bさんは苦い体験を思い出していた。「ドライブの最中、急に海面からの逆行がまぶしくて、頭痛が始まったことがあった」

「Bさん、診察室2番にどうぞ」スピーカーから声が聞こえた。
そういえば、こうして診察室に入るのは、久しぶりだった。医師と向き合うのは、会社の定期健診の時くらいの気がする。Bさんは緊張した。
「Bさんですね、どうぞ荷物はそのかごに入れて、お座り下さい。」50代後半だろうか、ソフトな感じの男性医師だった。「奥様ですか?そちらの丸椅子で良いですか?」ごく普通に話しが進むようでBさんも妻も、ほっとした感じだった。
「今日いらしたのは、頭痛ですね?」問診票を見ながら医師がたずねる。「どんな頭痛ですか?」
「はい、先週あまり頭痛がひどいので、救急車で近くの病院にいきました。検査ではなにも異常がないと言われました。でも、その時はとにかくひどい頭痛でしたので、異常がないといわれたのですが、かえって心配になっています」

「どんな検査でした?CTとかMRIですか?」
「MRIとMRAだと思います」妻も相づちを打ってくれた。「MRIで異常がないと、脳の病気ではないのですか?」
「MRIは脳の内部を詳しく調べる画像検査で、なにか脳に『異常なもの』があればミリ単位の大きさでも確認出来ます」医師は続ける。「MRAは脳の血管を立体的に映し出す検査で、例えば動脈瘤などは小さなものでもわかります」
「その、MRAも異常ないと言われました」
「動脈瘤がなかったということですね。今後、動脈瘤が破裂して、クモ膜下出血にはならないと言うことで、安心という分けです」

 「先生、逆に不安なんです。あんなにひどい頭痛の最中に、検査でなにもないって、信じられないんです。あのひどい頭痛の原因は何でしょうか?」
「そのことをはっきりさせるために、今日いらしたんですね」医師は質問を続けた。「先週のようなひどい頭痛は、今までにも何回かありました?あるいは、それほどひどくなくても、似たような頭痛、、」
「はい、何回もあります。先週のもひどかったですが、もっと辛い頭痛のこともありました」


「頭痛がくるのは時々で、頭痛の最中はひどいけれど、ないときはケロッとした感じですか?」
Bさんは、そのとうりだと思った。確かに、ひどい頭痛がきて寝込むこともあるが、それも時々で、辛いのは2日間で終わる。3日目には津波が引くように消え、なにか爽快な気分すらする。頭痛の去った後の爽快感が不思議だった。脳の中で病気との闘いが終わり、勝者から慶びの信号が送られてくる。ランナーズハイの気分かとも思った。でも、何かがおかしい、精神的な異常があるかとも思い、これまで病院を受診をためらっていた。
痛み止めを思い切って飲んでみたこともある。頭がぼんやりして、少し痛みが和らいだ気もしたが、ほとんど効果はなかった。それに、頭痛が終わる頃になっても、頭のぼんやりした感じが半日ほど続き、頭痛が終わった感じがしない。それ以来、鎮痛剤は飲んでいない。頭痛の時は、ひたすら我慢であった。

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