B 頭痛専門外来の受診
(6) 片頭痛?治りますか?
Bさんは、改めて自分の頭痛が片頭痛と聞いて、納得したというより半信半疑だった。『片頭痛』って、軽い頭痛のことじゃないか。俺の頭痛はそんなんじゃない。
「片頭痛は脳の血管の痛む『病気』で、相当に辛い頭痛です」
『病気』という言葉に、Bさんは何故か安心した。そうか、やっぱり病気でいいんだ。
でも、不安にもなる。
「治りますか?」
「片頭痛はもともとある遺伝的な体質が原因なので、完全に治すわけにはいかないのですが、片頭痛を軽くする薬や、予防する薬は新しく開発されていますので、片頭痛は上手にコントロールできます」
医師は、高血圧や糖尿病も遺伝的な要素が多く、治すというよりも薬や生活習慣でコントロールする。脳卒中や心筋梗塞にならないように予防するといった例を挙げて解説してくれた。
「脳卒中や心筋梗塞は、将来病気が起って、寝たきりになる可能性があるわけですが、片頭痛は働き盛りの若いときに頭痛で寝込んで会社を休んだり、頑張って会社に行っても仕事の能率は最悪、いつもの半分以下じゃないですか?」
「そのとおりです。おっしゃるように、これまで随分、損してきたような気がします。人生が大損した気がします」
「先生すいません。片頭痛のひとは脳卒中になりやすいって、テレビで聞いたことがありますが」妻が心配そうに聞いてくれた。
「片頭痛だから脳梗塞になりやすい、ということはありません。そういった統計結果がセンセーショナルに報道されたこともあります。おかげで片頭痛が、特に米国のマスコミで脚光を浴びたことがありました。ですが、その後の研究では否定されています」
医師ははっきり伝えたいと感じた。
「注意が必要なこともあります。女性が女性ホルモン、例えば経口避妊薬を安易に服用する、さらに喫煙をする人は、脳梗塞のリスクは確実に増えます」医師は続けた。「また、片頭痛の人には心房中隔欠損症を合併していることがあり、その場合も脳梗塞が起こりやすいですが、心臓の検査でわかります」
「私は大丈夫ですか?」
「身体検査で心臓に雑音あるといわれたことがなければ、先ず問題ありません。心配だったら、心臓の超音波の検査で確実な診断が簡単に出来ます」医師は続けた。「片頭痛は立派な病気ですが、どんどん悪くなる病気ではなく、時々、期日限定でくる辛い発作で悩まされる病気です」
「遺伝的な体質は治らないけど、病気はコントロール出来るということですか?」
「そのとうりです」そう、はっきり言われて、Bさんはこの医師には自分の頭痛のことをもっとく知ってもらいたいと感じていた。
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