頭痛専門外来

(8) 何故、トリプタンが効かない?


「トリプタンは効くときと効かないときがあるのですか?」Bさんはその理由が知りたかった。
「片頭痛がひどくなると、脳や体にいろいろな変化が起きて、トリプタンが効きにくい状態になることがあります。Bさんのダイアリーに、顔も痛むと書いてありますね」医師は、土曜の頭痛のマークのわきに『顔ピリピリ』と記してあるのに気づいていた。
「はい、顔の右側がピリピリと痛むようにいやな感じが続いていました。頭痛も右側がひどかったと思います」
「髪の毛をさわっても痛む感じした?」
「はい、時々感ずるのですが、頭痛がひどいときは髪をとかすと痛みが頭の奥にひびくし、手のひらがピリピリすることもあります」

 「その症状がアロディニアといわれています。片頭痛が始まって数時間すると、脳全体が痛みに過敏になって頭痛がひどくなるとともに、脳の外の顔や手も感覚が過敏になって、普段は感じない刺激が痛みに感ずる現象です」
片頭痛がすすむと脳が異常に過敏になり、もうトリプタンが効かなくなるということかとBさんは思った。
「片頭痛は脳の血管周囲に炎症が起こり、その炎症からでてくる痛み物質が片頭痛の痛みを起こします。その痛みに対して、脳内の痛み調節系の神経回路が働き、痛みに対処するためのネットワークが作られるのですが、体調によってはその過程が良い方向に働かず逆に脳全体が痛みに非常に敏感な状態になります」医師は続けた。「片頭痛は脳の血管が痛む第一段階と、その後に脳の中に痛みが蔓延する第二段階とがあります。第二段階になるとやっかいです。」
「そうなると、もうトリプタンが効かないのですか?」
「そうなのです。トリプタンは脳の血管の炎症を抑える、片頭痛の火元を消す薬です。ところが、第二段階のアロディニアが起こる頃には脳全体が痛んでいるので、トリプタンの効きが悪くなります」

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